--コラム【e-learning考察[2]】 --

1.はじめに
 私は今、東京大学大学院・情報学環学際情報学府(以下、学府)に行って授業を受けています。そして、私の前では、先生がパワーポイントを使って授業をおこなっています。

 もちろん、私は明治大学・情報コミュニケーション学部の学生であるから、学府の学生ではない。したがって、学内に入って授業を受けるということはできるはずがない。仮に入れたとしても、見つかった場合は大問題である。
 しかし、時代は「情報社会」である。e-learning技術を用いた授業も、もう驚きのものではなくなりつつあるといえるだろう。そこで、ここでは、その教室に簡単に行って学べる、まるでドラえもんの「どこでもドア」といえるようなe-learningに関して、その技術あるいはコミュニケーションの可能性と問題点を簡略ではあるが述べていきたい。


2.「技術」的視点
 まず、技術的な側面に関して、ブロードバンドの普及によって、より高画質な授業を、より短い待ち時間で見ることができるようになってきている。(注1)これはユーザの負担減少という点で、e-learning普及に大きなメリットとなるであろう。
 しかし、このような先端技術には「欠点」が当然のこととして存在する。ただしこれは、その技術の批判的観点というよりむしろ、その技術がよりよいものになるための、ある種の「助言」のようなものである。
 では、どういった技術的問題が生じているのであろうか。例えば、「閲覧可能領域の制限性」といったものがある。これは、授業を映像としてカメラで撮影しているため、そこに映らない領域が存在してしまうということである。
 この状況の顕著な例として、e-learningではないが、代々木ゼミナールが衛星を使って全国に配信している「サテライン授業」が挙げられる。(注2)これはカメラを複数台用いて、授業を撮影する方法を用いている。そのため、一台のカメラで撮影する場合よりも柔軟性が高い。しかし、板書スピードが速い場合は画面の切り替わりに受業者(注3)のノートを書くスピードが間に合わない。実際に筆者もそのような体験をしたことがあった。
 では、この問題というのは完全に妥協せざるを得ないものなのであろうか。私たちは受信・閲覧する権利を持っている。つまり、授業提供側が一方的に特定の画面を見せるのではなく、受業者が複数のカメラが映している任意の一つ、あるいは複数の映像を画面に映し出すことができるというシステムを用いればよいのである。


3.「コミュニケーション」的視点
 先端技術が「技術的」に人間の生活に影響を与えていることは明らかなことであるが、先端技術によって人間のコミュニケーション的部分にも何らかの影響を与えている。
 例えば、BBS、メール、メッセンジャーソフト(注4)によって遠距離に安価で自己思考を伝えることができるようになった。これは、e-learningにおいても学府で、BBSの書き込みによる意見交換、討論という形式で利用されている。また、e-learningに限ったことではないが、教員にメールで質問するといったことも現在一般に行われていることである。
 しかし、そのように「コミュニケーションの広がり」があるように思えるが、コミュニケーションが制限されてしまうこともある。例えば、他者の著作物をネットワーク上に載せることができない(注5)ことや、不適切な表現などを安易に言うことができないといったことなどがある。
 前者の例として、学府では<非公開>とされている映像がある。ただ、この問題は著作者の権利と関係があるので法律の改正が容易でないから、解決は難しいであろう。また、後者の例として、原島(2002)は、e-learningだからマズいので言えませんが、というような発言を授業内でしている。(注6)人間の行動をいかに変えるか?それは、技術が進歩しても解決し得ない問題である。
 このような点で、e-learningのコミュニケーション的な点における問題は難しいものである。


4.おわりに
 ここでは、主に学府の授業に関して考察してきたが、e-learningは他にも様々な形態のものがある。そして、それぞれ技術やコミュニケーションにおける可能性あるいは問題点を含んでいる。しかも、その中には解決され得ない問題もある。
 それぞれの形態の特徴を利用・選択し、あるいは生声を含めた他媒体も利用して、「よりよき学ぶ者」、ダ・ヴィンチ科学(注7)のように「より広く」学ぶ者になることが、特に、様々な情報の存在する現在の「情報社会」に必要であろう。


(注1)ここではデータダウンロードの待ち時間を指しているが、CPUの性能上昇化、HDの高速回転化等も待ち時間減少に影響していることも考慮する必要があろう。
(注2)サテライン授業の詳細については、http://www.yozemi.ac.jp/les/sat/index.html (代々木ゼミナール・サテラインゼミ)を参照されたい。
(注3)受業者という語は、「授業を受ける者」という定義の下で用いた筆者の造語である。
(注4)メッセンジャーソフトは、MSNメッセンジャー、skypeのように、文字あるいは音声や映像を用いて、インターネット上でコミュニケーションを行うためのソフトを指す。
(注5)著作権法・第二十三条によれば、「著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。」とあり、勝手にネットワーク上にアップロードすることは公衆送信権の侵害となる。
(注6)学府・授業「コミュニケーション・システム」原島博, 2002 参考。
(注7)学府・授業「コミュニケーション・システム」原島博, 2002 参考。氏によれば、ダ・ヴィンチ科学とは、様々な学問を横切った学際的な学問(科学)を指す。なお、ダ・ヴィンチ科学の名称は、様々な分野で活躍した、レオナルド・ダ・ヴィンチからつけられている。